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『山本薩夫の世界』

東京中央区にある東京国立近代美術館フィルムセンターで開かれている「東京フィルメックス」に行ってきた。
これは海外に向けて優れた日本映画を発信していきたいという趣旨で、特定非営利法人東京フィルメックス実行委員会が、朝日新聞社などの共催で開いているものだ。
このうち社会派ドキュメンタリー映画特集として山本薩夫監督の作品がまとめて上映されている。
私は先ず「にっぽん泥棒物語」を観た。
これは昭和23年に起きた松川事件を題材にし、この事件に巻き込まれた泥棒が最後には正義の証言を裁判所で行い、冤罪事件として決着をはかろうとする権力側をユーモラスを交えながらも批判的にとらえた映画だ。
戦後アメリカのデフレ政策を引き金に大量解雇が行われ労働争議が頻発、国鉄でも下山事件、松川事件といった列車事故は組合側の仕業という世論が形成されつつあった。
松川事件はいまだに真相がわからないままだが、組合員だった被告は無罪になっている。
この映画はまさにこの実際に起きた事件を題材に権力の横暴に鋭く切り込んでいる。

山本薩夫監督は、自身共産党員でさまざまな活動の果てに早稲田大学を追放され、松竹に就職、その後東宝に移った。
トークショーに出演した映画評論家佐藤忠夫さんは、「彼は貧乏人の描きかたがうまい。東宝から独立して左翼系プロとして苦労したが、左翼的作品も上手いがエンターテイメント系でも脚光を浴びた。社会派とエンターテイメント派がうまくマッチしているのが特徴」と語った。
佐藤さんの指摘したように、この映画では、悪いはずの泥棒を楽しく描き、むしろ警察を悪者にしているが、三国連太郎の名演技が見事に決まっている。山本監督は同様に「忍びの者」では、石川五右衞門を堂々と描いた。
一方、医師を悪く描いた「白い巨塔」、大富豪の金持ちの醜悪さを描く「華麗なる一族」と、彼の作品には一本通った視点が感じられる。
佐藤さんは「強いものに対するにはタフでなければならない。労働者階級を弱いものとして描くのではなく、そしてまた一方で資本家もタフに描く。華麗なる一族で富豪役を演じた佐分利信の迫力ある演技はまさにその象徴だ。エンターテイメントとして成功したのは悪い奴を堂々と描いたことにある。善玉にも悪玉にも同様に闘争心を描いたことこそ山本映画の特徴」と評している。

1965年製作の白黒映画だが飽きることなく、ストーリーに引き込まれた。
また英語の字幕をつけて外国人にも鑑賞してもらうのがこのフィルメックスの試みで、これは文化発信という意味でたいへん意義あることだと思う。

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